アスベスト(石綿)訴訟に関するQ&A
Q1 国は石綿工場におけるアスベスト(石綿)国家賠償金を何故支払うことになったのですか。
A1 私たちと行動を共にしていた大阪アスベスト弁護団は苦労の末、2014年(平成26年)10月9日、最高裁判所で勝訴判決を勝ち取りました。
大阪アスベスト弁護団はこの判決は原告になった大阪泉南地域のアスベスト(石綿)被害者だけではなく、全国の石綿工場で働き、中皮腫、肺がん、石綿肺、びまん性胸膜肥厚に苦しんだ労働者にも適用されるものだとして国会議員や政府に働きかけてくれました。
その結果、国が石綿工場で1958年(昭和33年)5月26日から1971年(昭和46年)4月28日まで働き、上記の病気にかかった被害者を一律に救済することになったのです。
このように、この制度は大阪アスベスト弁護団と泉南地域の原告の運動の成果であり、私たちは恩恵だけを受けるのではなく、アスベスト(石綿)被害根絶のために何らかの貢献をする必要があるでしょう。
Q2 今、国が賠償金の支払いについて個別に告知していると聞いていますが、どのような通知をしているのでしょうか。
A2 厚生労働省は大阪アスベスト弁護団、静岡アスベスト被害救済弁護団等の申し入れにより、2017年(平成29年)10月上旬から対象者に早期に訴訟を提起し、和解をするようにリーフレットを郵送しています。
この通知があった方は基本的には賠償金を受領することができますので早目に弁護士に相談し、訴訟を提起する必要があります。
Q3 香川県内ではどのような石綿工場が対象となっていますか。
A3 厚生労働省が公表している労災認定等が認定された事業場は香川県内だけで100件以上あります。厚生労働省が把握していない事業所も多数あると考えられますので、一度、当事務所にご相談ください。
Q4 私は勤務していた会社から損害賠償金をもらっていますが、この場合でも国から賠償金を受領できますか。
A4 今回の場合、国が支払う賠償金の上限は以下の金額の2分の1となります。
① じん肺管理区分の管理2で合併症がない場合 1100万円
② 管理2で合併症がある場合 1400万円
③ 管理3で合併症がない場合 1600万円
④ 管理3で合併症がある場合 1900万円
⑤ 管理4、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚の場合 2300万円
⑥ 石綿肺(管理2・3で合併症なし)による死亡の場合 2400万円
⑦ 石綿肺(管理2・3で合併症あり又は管理4)、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚による死亡の場合 2600万円
従いまして勤務先の会社から上記の金額以上のお金を受領している時には国は減額もしくは場合によったら支払わなくてもよいことになります。
但し会社から受領した金額が多額であったとしても、その中には家族の慰謝料も含まれていることもありますので、国から賠償金を受領することも可能になります。
今回の場合、あくまでも石綿被害者本人の慰謝料のみが考慮の対象となっていることを忘れてはなりません。
普通、会社はあまり多額の慰謝料を支払っていませんから多くの被害者の場合、国から賠償金を受領することができます。
Q5 国からの賠償金を受領することによって、労災保険金の支給は停止されたり、減額されるでしょうか。
A5 そのようなことはありません。厚生労働省が告知しているリーフレットの文章の中にも「労災保険や石綿健康被害救済法による給付を受けている方であっても対象になります。」と明記されています。
最高裁判決によって認められた賠償金は、慰謝料でありまして、休業補償や将来の逸失利益は入っていません。
このために慰謝料とは関係のない労災保険金には全く影響しないのです。
静岡県内にある労基署の1つでは問い合わせをした被害者に労災保険金が停止されるなどと誤解を与えるような言動をした職員もいるとのことですのでご注意下さい。
Q6 何故、訴訟によってしか請求はできないのですか。
A6 国は支払い根拠になる法律がないとして、裁判による和解の成立をその支払い根拠としています。
そのために訴訟という面倒な手続きが必要となっています。
本当は裁判でなく国との訴訟外の和解によって解決することがベターです。
Q7 弁護士を依頼せずに自分で訴訟を提起することはできますか。
A7 勿論、本人訴訟は可能ですが、訴状を作成したり、国の求めている証拠資料を収集することはかなり難しい作業です。
国は「一定の要件を満たすことが確認された場合には、訴訟の中で和解手続を進め、損害賠償金をお支払いします。」と告知していますが、労災認定がなされている場合でも、国に疑問が生じた時には要件を証拠により立証する必要が生じますから本人で訴訟をしない方がベターだと思います。
そして、国は損害賠償金に10%の弁護士費用を加算していますので、アスベスト(石綿)訴訟に精通した弁護士に依頼する方が良いと思います。
Q8 消滅時効の心配はないですか。
A8 権利行使の期間は不法行為だとすると加害の事実もしくは加害者を知ってから3年ということになります。
泉南最高裁判決があってから既に3年経過しましたので、私たち弁護士は消滅時効を心配していましたが、今回の国の権利行使の個別告知によってその心配はなくなったものと思います。
但し、告知から3年経過すれば消滅時効が完成するものと考えられます。
もっとも損害が発生した時から20年経過しますと除斥期間が経過し、権利行使ができません。
20年位前に石綿関連の病気によって死亡したご遺族は早めに訴訟を提起する必要があります。
Q9 国から損害賠償金を受領できるまで、どの位の期間がかかりますか。
A9 国が提起している要件が確認できれば裁判所は和解手続に移行させるものと思います。
国は賠償額を確定するために、裁判所の調査嘱託の手続きを活用して会社に支払いずみの損害賠償金の名目や金額を聴取しています。
このような手続きが円滑になされれば、9か月位で訴訟上の和解が成立するものと思います。
しかし、国が争うことになれば立証のため、少なくも1年位はかかるものと思います。
Q10 裁判には出かけなくてはならないですか。
A10 ご自分の裁判ですから、私たちは原告になるあなたに静岡地方裁判所に出かけて欲しいと思います。
しかし、身体の調子が悪い人もいるでしょうし、又、裁判所へ行くことは嫌だと考える方もいるでしょうから強制はしません。
ただ、私たちと被害者の皆様方がお金が欲しいのではなく、石綿被害根絶のために訴訟をしているのだという思いは共有したいと思います。