労働災害への事業主の向き合い方

事業主の補償・賠償責任

  事業主は、労働災害が発生し労働者が健康を害した場合に、労働基準法により補償責任を負います。

 また、債務不履行や不法行為により、民法上の損害賠償責任を負う可能性もあります。

 

 労働基準法の補償責任については、事業主が労災保険に加入していれば、労災保険の給付がおこなわれ、事業主は責任を免れることが出来ます(労働者が労働災害によって休業する1日目~3日目に関する補償は除く。)。

 民法上の損害賠償責任についても、労災保険からの給付の一部が賠償額から差し引かれます。

 必要な額の全てがまかなわれるとは限りませんが、事業者が労災保険に加入するメリットは小さくないと言えます。

 

 

事業主が労働災害防止対策を講じる責任

 事業主の安全配慮義務

 事業主は労働契約の当事者として、労働者が安全に就労できるようにする義務を負います。これを事業主の「安全配慮義務」といいます。

 

 安全配慮義務は、物的施設の整備に留まらず、従業員の教育を十分に行うなど、人的な要素にまで求められます。

 

【例】会社で宿直をしていた従業員が窃盗目的で侵入した元従業員により殺害されたケース

「…使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、X一人に対し昭和五三年八月一三日午前九時から二四時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もつて右物的施設等と相まつて労働者たるXの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があつたものと解すべきである。」(最判昭和59年4月10日)

 

 事業主がこの安全配慮義務を怠ったために労働者が労働災害にあった時、事業主は労働契約違反として、民法上の損害賠償責任義務を負います。

 

労働安全衛生法による責任

  労働安全衛生法により、事業者は、労働災害防止のための同法で定める基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならないと定められています。

 

 労働安全衛生法に違反すると、労災事故が発生していなくても、規定によっては刑事罰が定められているので、刑事責任が問われる可能性があります。もちろん労災事故が発生した場合にも、刑事責任は問題になりますし、民事上の責任があるかを判断する上で、労働安全衛生法に違反しているか否かは重要な考慮要素となります。

 

 事業者に求められる主なものは、安全衛生管理体制の整備、労働者の危険又は健康障害を防止するための措置(例:高所での作業のための落下防止柵の設置)、労働者の就業に当たっての措置(例:安全衛生に関する教育、中高年齢者への配慮)、健康の保持増進のための措置(例:健康診断、ストレスチェック)、快適な職場環境の形成のための措置です。

 

 近年の特徴として挙げられるのは、ストレスチェック制度です。

 仕事によるストレスで精神障害を発症し、労災認定されるケースが増加傾向にあり、労働安全衛生法にもストレスチェック制度が創設されました。

 この制度は、常時50人以上の労働者を使用する事業場に実施義務があります。医師等による労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)、それに基づく面接指導、医師の意見を勘案した事業者による措置等がその内容です。

 

労働災害が発生したら

 労働災害により労働者が死亡または休業した場合、事業者は、遅滞なく、「労働者死傷病報告」を労働基準監督署長にしなければなりません。

 事業者が、この報告を怠った場合、刑事責任を問われる可能性があります。

 労働災害が発生したこと自体についても、場合によっては、業務上過失致死傷罪等に問われることがあります。

 

 また、被災した労働者等による労災保険の申請には協力をしなければなりません。ただし、労働災害であることに疑義がある場合は、事業者は、その意見を労働基準監督署に申し出ることができます。

 

 被災した労働者等との交渉がまとまらなければ、訴訟等により、損害賠償請求がされる可能性もあります。

 

 上述のように、事業者は、法令上、広い責任を負っており、常日頃から安全衛生上の義務を果たすよう努めるとともに、労働災害が発生した場合には、早い段階で弁護士に相談し、刑事、民事等の責任に対応することをおすすめします。

 

 

*出所*

冨田武夫、牛嶋勉(2015)「最新実務労働災害ー労働補償と民事損害賠償ー」三協法規出版社

 

針谷裕一(2010)「労災保険と労災申請の実務と書式38」株式会社三修社

 

厚生労働省「労働災害が発生したとき」http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/rousai/index.html

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